主な研究内容

公共空間での緊急音声放送のバリアフリー化

駅や空港などの屋内空間では雑音や残響により音声案内が不明瞭で、特に高齢者・聴覚障がい者・非母語話者には聞きとり辛い環境です。災害時、音声情報は文字情報より更新が早く、建築的・電気音響的な手法は導入・改修のコストがかかります。

そこで音声による緊急放送を以下の2つの方法で明瞭化し、より多くの利用者へ適切な情報伝達を目指します。

信号処理による手法
雑音や残響の影響を予め軽減する信号処理をスピーカから拡声する前の音声に施す
人の発話と聴覚の相互作用を応用した方法
人が周囲の環境に応じて話し方を変化させる特徴を応用して、雑音や残響下で明瞭な発話になる録音/合成環境の構築を行う

これまでシミュレーション空間とホールでの心理実験より、提案法により若年者・高齢者・非母語話者に対する音声明瞭度を改善しています。

図1は若年者と高齢者に対して、残響環境下で文中の単語を聴取する実験を行った結果です。若年者・高齢者ともに、残響環境下で発話した提案法(R)の方が静音下で発話した従来法(Q)よりも複数の残響環境下で明瞭度が有意に高い結果となりました。図2は航空機騒音下の屋外拡声を模擬した環境で、若年者が文中の単語を聴取する実験を行った結果です。騒音下・エコー下で発話した提案法(R)の方が静音下で発話した従来法(Q)よりも明瞭度が有意に高い結果となりました。

Figure 1. Mean intelligibility benefits from proposed approach (R) relative to normal speech (Q) for young and older adults in each reverberation time. Replotted from Hodoshima et al., Proc. ICA, 2010, Hodoshima et al., Proc. Interspeech, 2012
Figure 2. Mean intelligibility benefits from proposed approach (NE) relative to normal speech (Q) for young adults in aircraft noise and multiple echoes. Plotted from Hodoshima et al., Proc. ICA, 2022.

若年者の騒音性難聴の予防

聴力は加齢と共に一般的に低下しますが、オーディオプレーヤー等の普及と共に、難聴のリスクは若年者にも増えています。本研究では若年者の騒音性難聴を予防する教育コンテンツ制作を行っています。

これまで、小学生~成人に対する聞こえの意識調査、オーディオプレーヤーの再生音圧レベルの測定、聴力検査を行い、高校生・大学生のイヤホン・ヘッドホン使用率が90%と高いことや、イヤホン・ヘッドホンの使用時間の長さと聞きづらさなどの聞こえの問題との相関、10%ほどの学生が音響外傷の危険のあるレベルで音楽を聞いているというデータが得られています。

聴覚と視覚のクロスモーダル情報処理

私達は普段、外界の情報を得るために複数の感覚を統合させており、単体の感覚よりも複数の感覚を同時に使うことで情報が強められたり弱められたりすることがあります。
本研究室では聴覚を中心にしたクロスモーダル処理の研究を行っています。例えば、VRによる3Dコンテンツと立体音響を用いてVR酔いを軽減する研究を行っています。

聴覚過敏の改善に向けた研究

聴覚過敏とは感覚過敏の一つで、多くの人が我慢できる音に対して過度に大きく感じる・苦痛に感じる症状のことです。聴覚過敏の治療にはイヤーマフ等の防護具だけではなく、最近では認知行動療法による治療もありますが、いまだ多くの事が分かっていません。

本研究室では聴覚過敏の方が苦手な音の種類の調査と、症状の改善に向けたシステムの開発を行っています。

読み聞かせが子どもの理解力・集中力に与える影響

読み聞かせは子どもの創造力や言語発達などに有効と言われていますが、話し手によって読み聞かせの効果は変わり、また子どもは騒音の影響を大人より受けやすいことが分かっています。

本研究室では発話方法や周辺雑音が読み聞かせに与える影響を調べており、本研究では読み聞かせらしい話し方の方が、朗読調の話し方よりも児童の物語理解度や集中力が増加し、読み聞かせ中に騒音を加えることで理解度が低下することを示しました。